5.262019
実践ブラッシュアップ講座「懐石料理のいただき方」を実施しました
2019年5月19日、3年ぶりに実践ブラッシュアップ講座「懐石料理のいただき方」を開講いたしました。講師は、茶懐石の伝統を伝え続ける新宿『柿傳』の三代目ご亭主、安田眞一氏です。
『柿傳』は、新宿駅から徒歩1分の立地にありながら、足を踏み入れると周囲の喧騒が嘘のような落ち着きのある空間が広がっています。「マナー・プロトコール検定1級試験」もこの『柿傳』古今サロンをお借りして行っています。
「古今サロン」は、惜しまれつつ建て替えられたホテルオークラ東京の旧本館を設計したことで知られる建築家の谷口吉郎氏のデザインです。亀甲形の照明が印象的なこのお部屋で、安田氏から、安田家とノーベル賞作家の川端康成先生との出会いから始まる『柿傳』誕生の秘話をご披露いただきました。
川端康成先生は、当初、新宿で骨董屋をやってみたいと考えていたそうですが、昭和43年にノーベル文学賞の受賞が決まり、骨董屋はできなくなったので、茶事ができるところを造ったらどうかとの提案を受けたそうです。そこから京都の表千家に相談し、江戸時代より表千家に懐石料理を提供していた『柿傳』の料理人を招き、さらに茶室、ギャラリーが造られたということでした。
安田氏のお話の後、古今サロンから茶室へ移動し、表千家の国宝「残月亭(ざんげつてい)」を模した茶室で、席入りからお茶事の流れを解説していただきます。
茶室はビルの9階ですが、きちんと露地が作られ、蹲踞もあります。茶室では、安田氏ご自身が亭主としてお点前をしてくださり、全員で薄茶をいただきました。
残月亭の床の間には川端康成先生直筆の「面白」という軸が掛けられ、改めて『柿傳』の歴史の重みを感じました。
古今サロンに戻り、お料理をいただきます。講師は、柿傳の結城美鶴先生です。ご用意くださった写真入りの資料をもとに懐石料理のいただき方を丁寧に教えてくださいました。
食事は、まずご飯と汁、向付が折敷に載せて出されます。続いてお酒が出され、向付はそれから手をつけます。
続いて煮物をいただいている間に2杯目のご飯が飯次で出され、焼物、鉢と続きます。小吸物が出たらいったん食事が終わり、酒の肴である八寸をいただきながらお酒を楽しみ、最後に湯を頼み、香の物といただいて終わります。
実際にいただいてみて、お椀のかぶせ方、ご飯は一口分残す、次客への声かけ、お椀の汚れを懐紙でふき取る等々、懐石料理には多くの決まりごとがありますが、それらは、もてなしてくれる亭主との関係性から生まれる主客相互の配慮によるものであることが分かりました。亭主が客人をもてなす心と、それを受ける客人の感謝の気持ちのやり取りが一つひとつの作法として表現されているわけです。
西洋料理では、サービスをする側と食事をいただく側ゲストの間には上下関係がありますが、懐石料理は”もてなし料理”であり、食事を提供する側といただく側、それぞれが配慮しあうことで一体感のある食事の空間を作り上げているわけです。今回の講座を通じ、作法の意味を理解することは大切だと改めて感じました。